マンホールナイト vol.10 に行ってきた

 

マンホール好きが集うイベント、「マンホールナイト」に行ってきた。場所は駒込の滝野川会館。自宅から近いので徒歩で行けてありがたかった。

東京23区デザインマンホール総覧(竹内正則さん)

 

最初は、マンホールナイト創設者の一人である竹内さんによる、デザインマンホールの話。

デザインマンホールというのはこういうやつだ。

 

ふつうの地味なやつと違って、人に見てもらうためのデザインが全面になされている。こういうののカタログを作ったという話。

デザインマンホールの一覧を作るためには、数あるマンホールをデザインマンホールとそれ以外に分けなければいけない。つまり、「デザインマンホール」の定義をしなければいけないのだけど、それってかなり難しい。

さらに「デザインマンホール」といいつつ、実際にデザインされているのはマンホールじゃなくて「マンホールの蓋」だ。だからここには「マンホール」という言葉で、実際にはその蓋を指すという慣用がある。

というような定義についての話をしているうちに残り5分になってしまった。ここでは次のような定義、というか指針で「デザインマンホール」を集めたそうだ。

・物理的な機能とは関係なく、ほぼ全体がデザインされた蓋
・100パーセント鋳物でできている。
・カラーは樹脂充填かセラミック
・デザインが全面

その結果、東京都23区内に現に設置されているものは43種類に大別できることが分かったとのこと。

 

上の写真はその一部。

なにかの話をしようとすると、どうしてもその対象についての定義と、ある程度の割り切りが必要になる。こういう悩みって、他のジャンルでもほぼ間違いなくあることなのでよく分かる。

たとえば暗渠もそうだ。狭義の暗渠という言葉が指す対象と、ぼくたちが実際に興味をもっている対象にはズレがある。たぶんもっと包括的な言葉を使ったほうがいいんだろうけど、いろいろ飲み込んで暗渠という言葉を使っている。

定義の話をしているだけで残り5分になるというあたり、誠実なんだなと思った。

測量の蓋のはなし(小金井美和子さん)

 

小金井さんは多才な人だ。

マンホールの蓋だけでなく、送水口や境界標にもくわしい。鳥の鳴き声を聞けばなんの鳥か分かる。そして最近、測量士の資格試験に合格した。

ちょっと意味がわからないほどすごい。今回はそれらの趣味のうち、測量の蓋についての話。

 

測量の蓋というのはこういうの。左が基準点。右が水準点。

「基準点や水準点の蓋が好き」と言っても、たいていのひとはまず基準点がなにか知らない。そこから説明しないといけないのが大変だという。

というわけで今回もまず、基準点とはなにかの説明から。基準点は測量をするための平面位置の基準だ。

 

座標を求めたい点(左上)にピンポールミラーというものを置き、すでに座標の分かっている任意の点、つまり基準点(右下)にトータルステーションという機械を置く。さらに、別の基準点(右上)に見た目の似ているターゲットミラーという機械を置く。

・まず、トータルステーションからターゲットミラーまでレーザーを飛ばして跳ね返すことで、その距離を正確に測る。
・同様に、トータルステーションからピンポールミラーまでの距離を測る。
・そして、ターゲットミラーからピンポールミラーまでの角度を測れば、求めたい座標が計算で分かる。

つまり、三角測量のために基準となる点が二つ必要で、それを提供するための点が基準点ていうことなのか。すごくよく分かった。

そして水準点は高さの基準で、レベルという高さを測る機械で水準測量というのをするときに使うとのこと。

・気になる蓋があったら「点の記」で調べられる。
・二級基準点は、杉並区のものであれば「すぎナビ」で調べられる

途中、小金井さんも書いた「街角図鑑」のことを紹介してくださっていて、とても嬉しかった。

異文化交流枠(顔ハメ兄さん)

マンホール以外の趣味の人を呼んで話をしてもらうコーナー。以前のマンホールナイトで、蓋以外のものも見たほうがいいというアドバイスを林丈二さんにもらったことも影響しているそうだ。

 

話者は、顔ハメにはまっているという顔ハメ兄さんという方。恩師とのコミュニケーションの一貫として、顔ハメを見かけたら撮って送り合うというのを続けていたところ、ハマってしまったという。いまでも1日に1個くらいのペースで撮っている。

顔ハメを楽しむコツ。

・とにかくその場を楽しむ
・観光地で顔ハメ写真だけ撮って、その場を楽しまずに去ってしまう「ハメ逃げ」は恥ずべきこと。

・誰かと一緒に撮る(顔ハメトゥギャザー)
・顔ハメはコミュニケーションツール

一人しかいなくても、自分が顔ハメをしているようすを、その場にいる誰かに撮ってもらえば、それがコミュニケーションになる。そういう視点で顔ハメを捉えたことはなかった。

とにかくまずはハメてみるということなんだろうか。終始楽しそうに話しているのが印象的だった。

ふたの東海道五十三次拓本の旅(飯田眞三さん)

 

なんと、北九州のパブリックビューイング会場から中継での発表。

飯田さんは、マンホールの蓋を拓本しながら東海道を歩く、ということを思いついた。

 

これは品川駅前でのようす。日本橋から出発して、この調子で実物大のマンホール拓本を取りながら、京都まで本当に歩いた。

すごすぎる。

「拓本を取りながら京都まで行っちゃったりして」というのは、思いつくことはあるかもしれないし、飲み会とかでそういうノリになることもあるかもしれない。

でも、やらない。やったとしても1日目で我に返る。でも飯田さんは、やった。この実行力。そして情熱。ひえーという声が出た。

マンホールナイト10回記念座談会(竹内正則さん、清水貴司さん、白浜公平さん)

 

マンホールナイトは7年前に竹内さん、白浜さん、清水さんの3人で始めたんだそうだ。10回目ということで歴史を振り返るコーナー。

・1回め、2回めは徹夜した。熱狂だった。
・当時は謎が多く、蓋に書かれた記号と座標の関係がリアルタイムに解き明かされていくような興奮もあった。
・下水道業界の主催するマンホールサミットとの接点もできた。
・林丈二さんが参加してくれるようになった!

右側にいるのが司会の清水さんなんだけど、むちゃくちゃいい声。落ち着いてて、余裕があって、ユーモアもある。こんなにすばらしい司会者はなかなかいない。

・今後はマンネリ化が懸念される
・しかし謎もまだまだ多い
・新しい試みを続けていきたい

知性を感じさせる3人の座談会だった。世の中の会議がみんなこんなだったらいいのに。

光明電気鉄道の蓋が保管された経緯について(白浜公平さん)

 

白浜さんは、静岡で珍しい古い蓋を発見した。それを磐田市埋蔵文化財センターに報告したところ、センターに保存されることになった。その経緯についての発表。

骨董蓋とも呼ばれる古い貴重な蓋については、それを発見したときに報告することにはジレンマがあるという。

・報告することによって撤去されてしまう可能性
・貴重だという認識を共有できれば保管されるかも
・その判断を一個人で行ってよいのかどうか

マンホールの蓋には一定の使用期限があるので、古い蓋は更新する必要がある。なので、古い蓋が残っていることが明らかになると、かえって撤去される可能性がある。

ただ、報告する相手さえ正しければ、それは貴重だとなって保管されるかもしれない。結果がどっちに転ぶかは、報告してみないと分からない。

そういう状況で、じゃあ貴重な蓋の発見を報告するかどうか、するならどこにという判断を、自分一人でやってしまっていいのかどうか。

ということを悩みつつ、白浜さんとしては、何もしないで撤去されてしまうよりは適切に報告したほうがマシなんじゃないかと考えているとのこと。

今回は、埋蔵文化財センターに報告したことによってきちんと保管された。しかもテレビや新聞にも取り上げられて、文化財センターとして3番目の話題物件となったそうだ。

 

蓋の場合、ジレンマはあるにしても保管という道がちゃんとあるというのがいいなと思う。蓋は文化財なんだ。

路上にあって観察の対象となるもので、保管の対象となるものはそんなに多くないように思う。たとえばトマソンは、第一号となる四谷の純粋階段はもう永久に見ることができない。古い装飾テントも、古いガードレールも、古い三角コーンも、おそらくどこにも保管されてない。

保管されるのはなんだろう。古い橋の親柱はよく見る。橋そのものも保管される。古い送水口は、なんと私人の情熱によって私設の送水口博物館に保管されている。そうか、情熱をもって博物館をつくればいいのか。お金と場所が必要だけど。

・物質的余裕
・社会的信用
・時間的余裕

白浜さんは、送水口博物館が成功している理由はこの3つが大きい、自分もほしいと言っていた。同感。

物販いろいろ

後ろのほうでは物販もやっていた。今回からの試みらしい。いろいろ買ってしまった。

マンホールマカロン。岡山の桃太郎マンホールがかわいい。

「街角図鑑」にも書いてくださったAYAさんによる「日本逸品送水口百選 上」。写真がきれい!

今日の人たちは、一つのことにずっと取り組んでいる。そして楽しそうに発信している。それってすごいことだ。

ぼくはたまに書きものをするけど、テーマは毎回違う。それは性にあってるんだけど、たまには一つのことにずっと取り組んだほうがいいのかもしれない。でもできるかな。少しはやってみるか。などと思った。

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