近所のスーパーで買った牛肉を焼いてみた。
普段は気にしないけれど、このお皿の上のお肉にも生まれ故郷がある。
その土地で誰かがこの牛を育て、誰かが運んできたからこそ、このお肉は今ここにある。だから、その経路を逆に辿っていけば最終的にはこの牛の生まれた場所にたどり着くはずだ。
調べたところ、牛肉の由来は次のサイトから検索できるらしい。
▶牛の個体識別情報検索サービス
パックに書かれた個体識別番号(1220046953)を入力してみると、履歴の最後の行は、
千葉県 と畜 H 16.12.02 旭市 (株)千葉県食肉公社
となっていた。この牛肉はここで解体されて越谷まで来たのに違いない。というわけで、次は千葉まで行ってみるのである。
千葉県食肉公社におじゃまして、食肉事業部の部長の方にお話を伺った。
ここでは生産者から渡された牛や豚のと殺と解体が行われ、脊椎に沿った半身(枝肉)の状態の肉が伊藤ハム等の業者に引き渡される。
牛の場合、解体のときに脳の一部を取り出して、隣にある衛生試験場でBSEの検査をする。結果はその日の夜7時頃には分かるらしい。
他にも色々なお話をお伺いし、また幸いにも実際のお仕事を見学もさせて頂いた。牛が倒れる瞬間はとても大きな音がする。最初のうちは一部始終を正視するのが難しかった。
個体識別番号による次の履歴を調べると
千葉県 転出 H 16.12.01 香取郡干潟町 宮沢
となっていた。宮沢さんこそがこの牛を育てた方になるのだろう。そこでこの宮沢さんにご連絡をしたところ、恐縮なことにお話をお伺いできることになった。
では、いよいよ最終目的地である宮沢農場へ向かおう。
千葉県香取郡の宮沢養鶏場をお伺いした。
社名が養鶏場となっているのは、宮沢さんのご一家ではこれまで鶏を主に扱ってきたためだ。肉牛は最近になってから始められたとのこと。
私が買ったのはホルスタインという種類になるそうで、その牛舎を宮沢さんが実際に案内して下さった。
宮沢さんが近づくと牛が揃って首を出してくるので、挨拶をしてるみたいですねと私が間抜けなことをいうと、
「(餌の)ワラを寄せてもらえると思ってるんでしょう」といって宮沢さんは笑った。
ワラは、地元のお米農家の減反対象の田んぼで取れた、もみがら付きの稲ワラを貰って使っている。 そして、牛舎で取れる堆肥を今度はお米農家に返す。
どちらにとっても捨てるものを互いに融通することで利益が生まれるという仕組みで、耕畜連携というらしい。
別の牛舎で黒毛和種とホルスタインの一代雑種(F1という)を作られているとのことで、見学させて頂いた。
お産をするための牛舎に、最近生まれたばかりの仔牛とその母親がいた。
生後しばらくの間、親の乳を飲むことによって親からの免疫が得られるらしい。
最近の飼料には免疫グロブリンという抗体の成分が含まれているため、これだけで十分だと考える人もいるそうだ。「でも病気になる仔もいる。やはり母親の初乳にまさるものはない」と宮沢さんは言う。
帰り際に、ここで生まれた最初の牛を見せて頂いた。
ペコちゃんという1才半のメスで、名前は前歯が欠けていたからだそうだ。肉牛は普通2才半で出荷されるので、手塩にかけたペコちゃんともあと1年でお別れということになる。
とはいえ、それまでのあいだ宮沢さんには何の売上も入らず、経費だけが掛かるのだ。彼女がどれだけいい牛に仕上がり、高く買ってもらえるかはとても重要だ。
宮沢さんに厚くお礼を申し上げてお別れをしようとしたところ、遠いからと最寄の高速バス乗り場まで車でお送り頂いてしまった。
最後まで本当にお世話になりました。