電気を追跡する

以前に一度だけ、家の電気を止められてしまったことがあって、一晩中、明かりもつかなければお風呂にも入れなくて本当に不便だったのを覚えている。

よく言われることだけど、電気のように普段当たり前にあるものは、無くなって初めてそのありがたみが分かるなあ・・と、冷蔵庫の音すらしない真っ暗な部屋の中で思った。

というわけで今回は、電気が僕の家までやってくる道を逆に辿ってみることにしよう。

上の写真が我が家のコンセントで、洗濯機の電源を差してあるので黄色い線(アース)が引いてある。

外に出てアパートの周りを見てみると、壁面から電気のケーブルが生えているところがあった。

 

ここに住んでいるみんなの分の電気は、このケーブル(引込線というらしい)を通ってすぐ目の前の電線からやって来ることになるのだろう。

電気を追跡する・2

アパートの引込線のつながっている最初の電柱がこれ。

よく見ると、横から来た引込線は真ん中の灰色のドラム管みたいなものにまずつながって、そこから電柱の一番てっぺんに見える3本の電線に続いている。

てっぺんの3本の線は、この先から来た高圧(6600V)の電気を伝える線で、高圧配電線というらしい。引込線から先は、僕たちが普段使っている100Vの電気が流れているから、あのドラム管は上流の高い電圧を家庭用に低く変換してくれる機械ということになる。

てっぺんの高圧配電線を辿っていって行き着いたのがこの電柱だ。

この電柱より向こう側には、空中を通る配電線がなくて、その代わりに電柱にまとわりついた黒いケーブルが地中に引き込まれている。

ここから先は、電気はケーブルを伝わって地中を通っていくことになるみたい・・だけど次はどこで地上に出るんだろう。

電気を追跡する・3

というわけで、キコキコと自転車をこいで、最寄りの変電所にやってきた。

ここより上流では、更に高い電圧(2万2千Vから15万4千V)の電気が流れていて、この変電所では、その電圧を配電のための6600Vに落としているらしい。

左側の写真では施設内の様子が良く見えないので、別の場所で撮影した写真がこちら。

このごつい機械(変圧器)で上流からの電圧を下流向けに低くしているらしい。

機械のまわりに生えているイガイガは放熱のための板で、中に入っている絶縁用の油が140℃ほどで引火してしまうので、温度が上がらないようにがんばって冷やしているとのこと。

ちなみに前のページのドラム管(柱上変圧器)にもやっぱり同じようなイガイガが生えているのが分かる。

電気を追跡する・4

次にやって来たのは、さっきの変電所よりも一回り大きな江東変電所。

ここから先は、鉄塔に支えられた送電線がずっと続いていくみたい。

真ん中の灰色の鉄塔の根元には、「江東線90」と書かれたプレートが貼られていた。江東線というのはこの鉄塔を含む一連の送電線路につけられた名前らしく、この鉄塔はその中で90番目ということになるのだろう。

送電線はここから荒川を越えて東へと延びていく。

このずっと向こうのどこかに、江東線の1番目の鉄塔があるに違いない。

というわけで、行ってみる。

電気を追跡する・5

江東線の1号鉄塔をたずねて、千葉県白井市の新京葉変電所にやってきた。


新京葉変電所はさっきの江東変電所よりもさらに大きな施設で、広い敷地の中に鉄塔や変圧器がいっぱい並んでいて、いかにも変電所という感じがする。この中はいったいどんな風になっているんだろう。

と思っていたら、幸いにもお隣の新野田変電所の見学をさせて頂けることになった。早速お伺いしたところ、何と所長みずからご説明してくださるとのこと。きょきょ恐縮です・・。

お話によると、新野田変電所や新京葉変電所は超々高圧変電所といって、発電所からやってきた50万V(または27.5万V)の電気を27.5万V(または15.4万V、6.6万V)の電圧に下げて下流に渡しているとのこと。

発電所から来た電気は、最初にこの大きなスイッチ(断路器、遮断機)を通る。

電圧を下げるための変圧器を通って、反対側のスイッチから下流側に抜けるようになっている。

スイッチは普段はオンになっていて電気が流れるようになっているのだけど、設備のメンテナンスをする時や、雷などで事故が起きた際にはオフになって、電気を流さないようにするらしい。

というわけで、新野田変電所の所長とみなさんにお礼を申し上げて、次は新京葉変電所から南へ向かうことにする。

電気を追跡する・6

新京葉変電所からつづく鉄塔北千葉線を南下して、途中で枝分かれした千葉中央線を西に入ったところで、何やら灰色のマントに身を包まれた鉄塔に行き当たった。

付近で休憩をされていた関係者の方にお伺いしたところ、今ちょうどペンキを塗りなおしている最中とのこと。

こういう作業をする場合はもちろん送電をとめるのだけど、いきなり全部の電気を止めるわけにはいかないので、今回は鉄塔の右半分だけの電気を止めて、そちら側だけ作業をするらしい。

ちなみに、鉄塔の上部に上るためには、4本の鉄塔の足にヒゲのように生えたハシゴを登っていくそうで、想像するだけで怖い。しかも親方曰く「昔は命綱なんか使わなかったがねぇ」とのこと。職人ってすごい。

電気を追跡する・7

さっきの鉄塔から、さらにもう一つ変電所をはさんで、ついに発電所まで辿りついた。

家の小さなコンセントに来ている100Vの電気が、こういう巨大な施設で炎をガンガン燃やして作られていると思うと、わりあい感慨深い気がする。

というわけで、施設の中を見学させていただくことができたのだけど、保安上の理由で施設の内部や近景は撮影禁止、唯一入口のでんこちゃん人形の記念撮影だけお許し頂いた。

ここは火力発電所なので、当然炎を燃やして電気を作るのだけど、ここの場合は、天然ガスを燃やしてジェットエンジンのような仕組みで羽根車(タービン)を回し、余った熱で水を沸騰させて、その蒸気圧でさらにタービンを回す、という二段構えになっているらしい。

タービンは発電機にくっついていて、発電機が回ると電気が作られる仕組みは「自転車のライトと同じ原理なんですよ~、ただ大きいだけで」とのこと。ただしその回転数は1秒間に50回なので、競輪選手でもちょっと無理っぽい。

火力発電は日本全体の発電量の約6割を担う主力の発電方式で、たとえばこの発電所で燃料として使っている天然ガスはあと60年以上は採掘することができる見込みらしい。

とはいえ、採れなくなったら60年後にまた考えればいいやという訳にもいかないらしく、太陽光や風力、生ゴミなどを使った新しいエネルギーの研究開発が日々進んでいる。

そういう新エネルギーが火力や原子力を含む全体のエネルギーに占める割合は、2002年の実績が1.3%、2010年の実績値が1.1%、ということで、どうも地道にやっていくしかないみたい。

というわけで発電所に別れを告げ、江古田のお家までキコキコと自転車で帰るのでありました。

神田川をボートで遡る

神田川の河口

これは、神田川の河口を隅田川から見たところ。

ふだん街で目にする狭くて汚い神田川とは違って、河口付近はさすがに広くて立派な感じだ。

神田川は、井の頭公園を水源とする小さな流れから始まっている。というのは知識としては知ってるんだけど、その経路を辿ってみたことはもちろんない。

じゃあ、実際に辿ってみよう。
というわけで、水源までさかのぼってみることにした。

それに、せっかくだから、ボートで神田川の上をぷかぷかと進めたら楽しいに違いない。

念のため、神田川を管理する東京都建設局河川部の担当の方にお聞きしたところ、川の上を小さな船で小さな推力で進む分には、特に何の法律にも抵触しないとのこと。

 

浅草橋付近

河口に近い浅草橋には、船宿のための船着場がいくつもある。そこをお借りして、ゴムボートでのんびりと神田川を遡ってみよう。

神田川をボートで遡る・2

御茶の水付近

えっちらおっちらとボートを進め、お茶の水の辺りまでやって来た。

この辺りは川幅も広く、水もわりあい綺麗に映る。
ときどき、コイが水面に現れてごぽっと泡を作るのが見える。

お茶の水付近は、川の両側がとても切り立った谷になっている。これは自然に出来た地形ではなくて、江戸時代にこの辺りの丘を切り開いて、神田川を通すようにしたためらしい。

洪水が起きたときに江戸城下を水びたしにしないためだそうだけど、こんなところに谷を掘れと言われた当時の人たちは相当大変だったに違いない。

のらネコ

こちらは、聖橋付近の北側の岸辺に降りてきていたネコ。
川の上を進むボートを不審に思ったのか、お茶の水橋を通り過ぎる付近まで一緒について来た。

神田川をボートで遡る・3

水道橋付近

さらに進むと、水道橋が見えてきた。

正面右手には外堀通りや後楽園の遊園地があり、左手には中央線の線路が通っている。
よく見ると、左側の中央線の乗っている土手は、右側の外堀通りの地面の位置より高くなっているけど、これもやはり自然の地形ではなくて、江戸時代に江戸城のある南側(左手)だけに築かれた堤防らしい。

右側に柱が2本立っている場所は、神田川が地面の下を流れる分水路というものの入口になる。

分水路の上流側
というわけで、その中に入ってみた。
ずいぶん先まで続いているらしく、奥のほうは暗くてまったく見えない。
正直いってちょっと怖い。

十分な装備と準備があれば入っていっても大丈夫なんだろうけど、さすがに引き返すことにした。

それにしても、どこまで続いてるんだろう。